死亡保険金がある生命保険に付けられる特約に、リビングニーズ特約があります。このリビングニーズ特約は、余命6ヶ月以内と診断されたら保険金を受け取ることができるユニークな特約です。
この記事では、リビングニーズ特約について説明します。リビングニーズ特約の税金や注意点、保険金を受け取って死ななかったら返金が必要かどうかもくわしく解説していきます。
リビングニーズ特約とは
死亡保障に付けられるリビングニーズ特約は、被保険者の余命が6ヶ月以内と診断された場合に、生存中に死亡保険金を受け取ることができる特約です。
死亡保険は普通だと亡くなったときや高度障害になったときにしか受け取れませんが、このリビングニーズ特約が付加されていれば、生存中に保険金を受け取ることができます。
なぜこんな特約があるのでしょうか。
リビングニーズ特約ができた理由
リビングニーズ特約が誕生したのは1989年です。アメリカのプルデンシャル生命が、リビングニーズ特約を作りました。
1989年 米国プルデンシャル元社長のロナルド・バーバロが実現
米国プルデンシャル元社長のロナルド・バーバロは、1989年当時、仕事のかたわらボランティア活動にも多くの時間を割いていました。
ある日、彼はエイズ患者が入院するホスピスを訪問し、死を目前にした人々の姿を見て、「何かできることはありませんか?」と尋ね歩きました。すると、ある患者が「私は尊厳のある死を迎えたい」と答えたのです。
実はその患者は医療費など多額の借金を抱えていました。生命保険に加入していましたが、亡くなるまでは保険金は受け取れません。バーバロは保険業に携わるものとして何かできないだろうかと考えた末に、いずれ支払われる保険金であれば、生きている間に前払いできないだろうかと考えたのです。
そして、彼は社内や行政当局を説得して、「リビング・ニーズ特約」を実現させました。保険金を受け取った患者は借金を清算し、クリスマスには故郷に帰り、プレゼントも買い、家族と一緒に過ごすことができました。
そして、最期まで自分で身の回りの世話をできるように洗濯機を買い、余った保険金を教会に寄付したそうです。その患者は息を引き取る直前に「ありがとう。私は今とても安らかな気持ちです」とバーバロに言ったそうです。
その後、リビング・ニーズ特約は世界に広がりました。
引用:プルデンシャル生命
日本でリビングニーズ特約が初めて導入されたのは1992年です。現在では、国内のほとんどの保険会社が、当たり前のようにリビングニーズ特約を取り扱っています。
リビングニーズ特約で受け取る保険金の受取人は被保険者本人
死亡保険の保険金受取人は、被保険者以外が指定されます。亡くなった本人は保険金を受け取れないので、当たり前ですよね。
しかし、リビングニーズ特約を使った場合の受取人は、被保険者本人です。保険金は被保険者本人が受け取って、残り少ない人生を悔いなく過ごすために自由に使うことができます。
リビングニーズ特約の保険料
生命保険は特約を付けると。保険料がどんどん高くなるイメージを持っているかもしれませんが、このリビングニーズ特約の保険料は無料です。
リビングニーズ特約を付加しても付加しなくても、その生命保険の保険料は変わりません。
リビングニーズ特約で受け取れる保険金の上限額
リビングニーズ特約で受け取れる保険金には、上限が定められています。一般的に、リビングニーズ特約で支払われる保険金の上限額は3,000万円です。
死亡保険金額は上限額以下であれば、全額ではなく一部のみ請求することもできます。
もし5,000万円の死亡保険に加入していたなら、リビングニーズ特約を使って受け取る保険金額は1,000万円でも500万円でも問題ありません。
リビングニーズ特約で保険金を受け取ったのに死ななかったら返金?
リビングニーズ特約は、被保険者の余命が6ヶ月以内と医師に診断された場合に支払われます。しかし、中には余命宣告を受けても、生き長らえる人がいます。
もしも被保険者が6ヶ月以内に死ななかったらどうなるのでしょうか。リビングニーズ特約で受け取った保険金を返す必要はないのでしょうか。
リビングニーズ特約で受け取った保険金は、被保険者のその後の生死にかかわらず、受け取ることが可能です。被保険者がその後10年生きたとしても、返金の必要はありません。
そもそも、死ななかったときに返金が必要だったら、受け取った保険金も怖くて使えないことでしょう。リビングニーズ特約で保険金を受け取ったのに死ななかったら、健康的にも金銭的にもラッキーで、かなりの強運の持ち主ですね。
リビングニーズ特約で保険金を受け取ったときの税金
さきほども説明したように、リビングニーズ特約での保険金は被保険者本人が受け取ります。死亡保険金の場合は、保険料負担者と保険金受取人の関係によって、かかる税金は異なります。
リビングニーズ特約で受け取る保険金は、保険料負担者が誰であろうと非課税です。所得税や贈与税は一切かかりません。
通常の死亡保険金は課税対象なのに、なぜリビングニーズ特約で保険金を受け取ると非課税になるのでしょうか。
リビングニーズ特約で受け取る保険金が非課税の理由
リビングニーズ特約を使って保険金を受け取れるのは、重い病気やケガで余命6ヶ月以内の状況のときです。これは所得税法で非課税とされている「身体の障害に起因して支払われる保険金」に該当します。
そのため、リビングニーズ特約で受け取る保険金は、医療保険の入院給付金や手術給付金などと同じく非課税扱いとなります。
リビングニーズ特約で保険金を受け取るときの注意点
メリットが多いように見えるリビングニーズ特約ですが、保険金を受け取るときには注意点があります。安易に請求すると、損をしてしまうこともあるからです。
すぐに亡くなっても6ヶ月分の保険料と利息は返金されない
リビングニーズ特約で保険金を請求すると、6ヶ月分の保険料とその利息が引かれて支払われます。
仮に保険金を受け取った直後に亡くなったとしても、保険金から差し引かれた6ヶ月分の保険料とその利息は戻ってこないので、保険料を多く払ってしまう可能性があります。
受取時は非課税でも相続時に課税されることがある
リビングニーズ特約で受け取った保険金は非課税です。しかし、亡くなったときに残っている財産は、相続税の対象になります。
リビングニーズ特約で被保険者がすでに受け取った保険金は、当然のことながら死亡保険金としての非課税枠(500万円×法定相続人)の対象外です。
リビングニーズ特約で必要以上に保険金を受け取ると、相続時に課税されて損をする可能性があります。
リビングニーズ特約で保険金を請求できるのは1回限り
リビングニーズ特約で保険金を請求できるのは1回限りです。お金が足りなくなっても、再度リビングニーズ特約で請求することはできません。
負債が多くて相続放棄をするケース
亡くなった被保険者に負債が多くて遺族が相続放棄をした場合でも、死亡保険金に関しては保険金受取人固有の財産として受け取ることが可能です。
一方で、リビングニーズ特約で被保険者がすでに受け取った保険金は被保険者の財産になるので、生前に使い切れずに残っていたとしても、相続放棄すると受け取ることができません。
主契約が終了すると特約も消滅する
リビングニーズ特約で保険金を全額請求して主契約が終了となったら、付加されていた他の特約も消滅してしまいます。
リビングニーズ特約で保険金を受け取る状況というのは、入院の可能性も高い状況です。入院特約などは消滅させないように注意が必要です。
とりあえずリビングニーズ特約は付けておいて損はない
リビングニーズ特約は無料で付加できますし、請求するかどうかも自分で選べるので、とりあえず付加しておいて損はないものの、請求時には様々な点を考慮することが必要です。非課税で受け取れるからと安易に請求すると、後で後悔する可能性もあります。
リビングニーズ特約での保険金請求は、税金や保険のことにくわしいファイナンシャルプランナーと相談してからがおすすめです。
コメント